突然だが想像してみてほしい。
歯を磨くのも食後すぐが良い、というわけではない。
歯に関わる疾患というと虫歯や歯周病が挙げられますが、最近はスポーツドリンクやレモンなど飲食物に含まれる酸で歯が溶ける酸蝕歯(さんしょくし)になる人が増えています。酸蝕歯になると、歯が黄ばんだり欠けたりするだけでなく知覚過敏も引き起こし、歯科医は酸性度の強い飲食物の摂取に注意を呼び掛けています。
酸蝕歯は虫歯や歯周病に次ぐ第3の口内疾患として注目されており、虫歯は虫歯菌の出す酸により歯が溶けてしまう疾患で、歯の溝や歯と歯の間など汚れの溜まりやすい場所で局所的に起こりやすいのに対し、酸蝕歯は飲食物の酸が原因で歯が溶ける疾患です。
スポーツドリンクやレモンなど酸性度の高い飲食物を食べたり飲んだりすると口の中全体に広がるため、広範囲で起こるのも特徴です。
歯の表面はエナメル質で覆われており内側に象牙質がありますが、酸の影響でエナメル質が溶けると歯が欠けてしまうこともあり、象牙質が露出すると歯が黄ばんで見えるほか、冷たいものなどがしみる知覚過敏へとつながります。
4人に1人が酸蝕歯
酸蝕歯の原因となる酸性度の高い飲食物は、レモンなどのように「酸っぱい」ものに限りません。
酸性・アルカリ性を示すph値は、数値が低いほど酸性度が強いことを示し、虫歯の場合は口腔内のpH値が5.5以下になると歯が溶け始めると言われています。
酸蝕歯の場合、歯が溶け始めるpH値はまだ詳しくわかっていませんが、虫歯と同様にpH5.5以下の飲食物は酸蝕歯となるリスクを高める傾向があります。
東京医科歯科大の北迫勇一助教授らの調査によると、コーラやミカン、スポーツドリンクなどの酸性値が高く、「ドレッシングや栄養ドリンクなども酸性度が高い傾向にある」と指摘しています。
- ミネラルウォーター(7.0pH)
- 牛乳(6.8pH)
- 緑茶(6.2pH)
- 味噌汁(5.5pH)
- トマトジュース(4.8pH)
- 醤油(4.7pH)
- 野菜ジュース(3.7pH)
- ミカン(3.6pH)
- スポーツドリンク(3.5pH)
- コーラ(2.2pH)
- レモン(2.1pH)
- 胃液(2.0pH)
※数値は商品により異なる
また、健康のためにお酢を飲む人は多くいますが、酸蝕歯の原因ともなるため注意が必要です。
北迫勇一助教授によると、ダイエットのために毎日コップ2杯の黒酢を原液で飲んでいた女性は、黒酢に含まれる酸が原因で前歯の象牙質が露出した例や、ミカンを毎日食べていた人が酸蝕歯となった例がみられたとしています。
近年の酸蝕歯の増加には、和食と比べ酸性度の比較的高い欧米の食文化の普及や、スポーツドリンクなどのペットボトルを持ち歩く人が増加したことも一因として考えられており、北迫勇一助教授が2013年に10~80代の男女1108人を対象にした調査では4人に1人が酸蝕歯の状態でした。
酸蝕歯の予防
酸蝕歯を予防するためには、歯を長時間、酸にさらさないことが大切です。酸性度の高い飲食物をだらだらと長い時間かけて食べたり飲んだりすることは危険で、飲み物についてもストローを使用することで歯への接触が少なくなり予防に有効です。
また、唾液には酸を洗い流し中和する作用があり、唾液に含まれるミネラル成分がエナメル質の補修を行います。そのため、食後にガムを噛んで唾液を出すようにするのも予防につながるほか、酸性の飲食物を口にした後には水やお茶を飲むことが有効でしょう。
虫歯の予防には歯磨きが有効ですが、酸蝕歯と診断されたり、酸蝕歯の疑いがある場合には、酸性度の高いものを摂取した後30分から1時間は時間を空けて歯を磨くようにする必要があります。食後は食品などに含まれる酸の影響でエナメル質が柔らかくなっており、歯を磨くことで歯が削れてしまうことになりかねません。
北迫勇一助教授は「酸蝕歯は虫歯のない、きれいな口の中でも発症する。原因となる飲食物を把握し、しっかりと予防してほしい」と話し、注意を呼び掛けています。