突然だが想像してみてほしい。
すぐそばに命を救えるものがあっても使えなければ意味がない。
駅や空港、市役所、大型の商業施設など人が多く集まる場所に設置されている自動体外式除細動器(AED)。AEDは必要に応じて電気ショック(除細動)を与え、心臓の働きを取り戻すことを試みる医療機器ですが、いざ必要となった時に使用することができるでしょうか。
不特定多数の人が集まる場所に設置されているAEDは、万一の事態の際、その場に居合わせた一般市民でも使用できるように設計されています。
日本では、救急連絡がなされてから救急車が現場に到着するまでに平均7分の時間を必要としていますが、心臓が心室細動という不整脈を起こしている場合、1分ごとに約10%ずつ生存率が下がっていくと言われています。そのため一刻も早い除細動を実施することが求められ、救急車の到着までにAEDを使用することで、救急隊員や医師が到着してからAEDを使用するよりも、救命率が数倍も高いことが明らかになっています。
AEDは学校にも設置されていますが、埼玉県さいたま市で2011年に発生した事故では、AEDが使われないまま小学校6年生の女児が亡くなっています。
学校でのこどもの突然の心停止は年間100件以上発生しており、AEDの使い方や救命教育の充実を求める声が高まっています。
AEDの有効活用を
2011年に亡くなった小学校6年生の女児の遺族は、命日となった9月30日に下村博文文部科学大臣と面会し、「この事故は決して人ごとではなく誰にも起こり得る。いざという時にAEDを使える体制を構築してほしい」と訴えました。
女児は放課後に学校の運動場で駅伝の練習をしていた際に倒れたといい、けいれんやあえぐような呼吸がみられたため、教員は「呼吸がある」と判断して心臓マッサージなどの心肺蘇生は行わず、学校に備え付けられていたAEDも使用されませんでした。
救急連絡から11分後、救急隊が到着した時には心肺停止状態で、翌日に亡くなっています。
あえぐような呼吸は「死戦期呼吸」と呼ばれ、心停止直後に現れることがありますが、一見呼吸をしているように見えるため、女児の場合にも教員が勘違いをしたとみられています。
「死戦期呼吸」はしゃくりあげるような様子がひとつの特徴で、「とりあえず呼吸をしているから大丈夫だろう」というあいまいな判断が、救えたかもしれない命を落としてしまうことにも繋がりかねません。
呼吸に少しでも異常を感じたら「心停止の状態」と判断し、ただちに胸骨圧迫など心臓マッサージを開始し、AEDによる処置を行うことが大切です。
AEDには一般市民でも使用できるように、音声により次にするべきことを指示してくれるようになっています。倒れている人の胸に電極パッドを貼ると、機械が電気ショックが必要かどうかを自動で診断してくれるようにもなっているため、必要のない人に電気ショックを与えることや、操作を間違って電気が流れることはありません。
倒れた人に遭遇し、呼吸に異常を感じた時は、迷うことなくAEDを活用して自動診断を行いましょう。
日本学校保健会によると、小中高校でAEDが使われた事例は2008年から2012年度で522件あると言います。また、日本臨床救急医学会と日本循環器学会では、心肺蘇生やAEDの使い方を小中高校で指導強化することや、教員志望の大学生に対する必修化などを提言しています。
両学会によると、心臓停止による突然死は年間約7万人に上りますが、心肺蘇生とAEDを使用することで、何もしない場合に比べて助かる確率は4倍にもなるとしています。